名古屋高等裁判所 昭和25年(う)15号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(理由)
辯護人佐治良三提出の控訴趣意書の要旨は、本件追起訴に係る部分に就ては辯護届の提出が無かつたから結局原審は右部分につき被告人に辯護人を附せずして審理判決を爲した違法がある。と謂い、辯護人黑河衞提出の控訴趣意書の要旨は、本件犯行の動機態樣、改悛の情、前科の無い點等を考察すると懲役に就いては執行猶豫の判決を至當とすると謂うにある。從つて記録に基き審按するに被告人及び辯護人黑河衞連署提出の辯護人選任届の日時及び追起訴状の日時を對照考察すると右辯護届提出當時は未だ追起訴状の提起が無かつたので從つて辯護權も昭和二十四年十月十九日附起訴状記載の範囲に止まつていたことは之を認めることができるが飜つて原審第四回公判調書の記載をみると右追起訴状記載の事實が審理せられ、當日辯護人黑河衞出頭辯論を爲したこと並びに被告人は最後に「何も言うことはない」旨述べたことが認められる。依つて按ずるに裁判所に對する辯護權の行使は辯護届を提出して初めて之を爲し得るものであるから右は一種の要式行爲と謂うべく從つて辯護届に犯罪事實を明記してある場合には該事實と異つた事實について辯護を爲すことはできないが單に「被告人に係る刑事々件」と記載してある場合に於て該辯護届提出後に係る追起訴に就き當初の辯護人に於て辯護權を有するや否やに就て審按するに被告人が他の辯護人を選任せず、また當初選任した辯護人が追起訴の事實につき辯護權を行使するに際し被告人に何等の異議が無かつた場合には被告人は該辯護人に追起訴の事實に就ても亦辯護を依賴する意思と看るの外なく從つて當初提出した辯護届は追起訴の事實に就ても包括的に記載された關係に立つものと見做して何等矛盾は無い依つて此點に就き更に審究するに前記辯護届には單に「右刑事被告事件につき云々」と記載せられてあるから此一通を以て本件公訴事實全部の辯護届と解すべきは寧ろ常識の命ずるところであつて且又刑事訴訟法第一條の「適正迅速」の趣旨にも合するものである。從つて原審が本件追起訴に就き被告人に辯護人を附せなかつたと謂う論旨は理由がない。